日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 2月号

早春の口腔アレルギーと狸の話
-雪がしんしん降る晩に
先日、オンライン研修会の開催者として、冒頭に挨拶が組まれていました。1時間前の打ち合わせでは冗談も出るぐらい滑らかな口調でした。本番になって挨拶をはじめると、急に言葉が出なくなってしまいました。むせながらもなんとか挨拶を終えましたが、参加者のみなさま方にお聞き苦しく、またご心配をおかけしたことと思います。本人が一番びっくりしました。翌日には何事もなかったような状態です。
みなさんは、口腔アレルギー症候群(OAS=oral allergy syndrome)という症状をご存知でしょうか? 口腔という冠が付けられている症候群ですが意外と歯科ではなじみがありません。例えば花粉症患者は花粉のアレルゲンに対するIgE抗体を持っており、花粉のアレルゲンと構造が似ている野菜や果物のアレルゲンがこのIgE抗体と反応(交差反応)して口腔内でアレルギーが発生します。アナフィラキシーショックの症例も報告されています。
花粉症の私は長年、春先から悩んできました。加齢とともに症状は軽くなっています。この間に、果物のキウイや枇杷、時にメロンや桃などで口の中がシュワシュワした感じになることがあり、これが口腔アレルギーというものだということを知ったのは、比較的最近です。果物を食べた時に、たまにのどが詰まったような感覚もありましたが、季節性ということか、さほどひどい症状は経験していませんでした。挨拶時の私は喘息様症状だったようです。最初は、コロナ禍でオンサイトの仕事が減ったために緊張感も加わり、いわゆるオーラルフレイルによるものと思いましたが、苦労した挨拶を済ませて後で確認できたことが口腔アレルギーの症状でした。のどを潤すために、研修会の開始前に飲んだ購入したてのフルーツジュースが引き金になったようです。
今更ながらですが、歯科も関わる必要のある分野です。日本歯科医学会の認定分科会に日本口腔内科学会が登録されました。この分科会に『口腔アレルギー』に積極的に取り組んでいただきましょう。
回復した翌日、夜の散歩から帰ってきたところ、家の前の道路に動物が横たわっていました。駆け寄ってみると狸でした。どうも自動車にはねられた様子。頭からの出血と浅い呼吸が街灯の下でも確認できました。手足に傷はありませんが動きません。このままにしておいてはさらに車にひかれてしまいそうなので、丘を上がって柔らかそうな草むらまで運びました。一晩持たないと判断して彼らの住処への入り口と思しきところに置き去りにしたのです。この辺りは夜間には氷点下になりますし、草むらにも冷たい風が吹きつけます。あすは市の担当部署に連絡して処理をお願いせねばと落ち込んだ気分で床に入りました。翌朝早く、足取り重く行ってみると狸の姿がありません。周辺を探しても見当たりません。他の動物に持ち去られた様子もありません。自力で住処に戻ったか、家族が迎えに来たのか、とにかく姿を見つけることはできませんでした。昨晩は草むらに放置しないで他に何かの方法を選ぶべきだったのかとの後悔心を持ちました。とにもかくにもなんとか住処まで帰れたのだとの想いが少しうれしい気持ちを呼んでくれました。今年1月、積雪の上に見つけた足跡はやはり狸だったのだなと、寒さの中にも春を感じ縦横に繰り広げられる彼ら野生動物の暮らしがすぐそばにあることの幸せ感を味わうことができました。最近、この住宅内をわき道として通る車が増えています。カーナビがショートカットの路を教えているのが理由でしょう。野生動物も人間も、不安のない生活が送れるような地域に戻ってほしいと願うばかりです。
知人にこの狸の話をしたら、頭から血を流していたので脳震盪の状態にあったこと、呼吸の確認と手足のけががなかったことなどから、野生の動物は歩いて住処に帰れると教えてくれました。私の対処は正しかったともつけ加えてもらいました。
道路に横たわっていたのはまさか狸寝入りではなかったでしょうが、私の挨拶時の苦悶症状も、古狸の迫真の演技と思っている人もいたかもしれません。コロナ、コロナの毎日にもさまざまな出来事は起きています。自分の周辺の普段からの生活にも気配りを忘れないように過ごしましょう。
副題は「雨がしょぼしょぼ降る晩に
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狸の足跡 撮影日:2022年1月8日6時51分 |
近隣の丘につながるコンクリート 階段上にて |
令和 4年 2月 8日
狸に関する話の続き
2月10日は関東地方に積雪がありました。多摩西部の自宅周辺には10㎝ぐらいの予報が出ていましたが、2㎝程度の積雪でした。11日の朝には自宅前の道路の雪はほとんど溶けていました。いつもよりも遅くなりましたが、階段を上りストレッチ体操をする場所に向かう途中でうれしい光景を目にしました。薄い雪の上に足跡を見つけたのです。
彼の狸は元気になったようです。ただ心配なことは、みぞれ状になった階段下までの雪の上に、足跡が続いていたことです。食べ物を求めてかもしれませんが懲りない連中です。
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令和4年2月11日
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