日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 令和3年6月号

「住する所なきを まず花と知るべし」
現在の執行部は、今月30日で任期が満了する。2019年7月の発足から2年、激変の時代だったと思う。同年12月ごろまでは、従来通りに全国各地で分科会の学術大会が開催されており、私も可能な限り多くの理事会や懇親会に出席させていただいていた。しかし2020年に入ると、学術大会は次々と延期、中止、あるいはWEB開催となり、それまで毎週のように出かけていたことが全くといってよいほどなくなってしまった。それ以降、今日まで飛行機はいうにおよばず、新幹線にすら乗っていない。そしてこれに呼応するように、わが家のオンライン会議の体制が整っていった。カメラの新規購入、光源や衝立の準備、家人へのオンライン会議中の掲示版設置など、ちょっとしたスタジオが出来上がった。電車通勤の緊張感がないとはいえ、オンライン会議の準備にも、それなりのエネルギーを注ぎ込む必要があると実感している。根が凝り性なだけに、家人もあきれるほどの細かい気配りをしているが、さてそれが画面を通して伝わっているだろうか。
オンライン会議では、参加者の設備や運営の不備が目につき、せっかくの内容が半減されることがある。実はこれは他人事でなく、画面共有がうまくいかなかったり、音をミュートにしたまま話していたり、わずかでもこのような失態をしたときは、なんともいえない後味の悪さが残る。これからの社会生活に必須となったデジタル環境に否応なく順応していかなければならない者にとって、経験者や知恵者からのアドバイスは頼もしい。この1年半、多く方々から英知の提供と協力をいただけたことによって、事業を推進することができたことに、心から感謝したい。
さて、先月号で散歩道の鶯の鳴き声が変だとお伝えした。鳴き方の先生鳥がいなくなったので上手に鳴くことができないのだろうと評した。しかし最近、さるTV番組で「鳥語」の紹介があった。鳥たちの間に、特に危険を知らせる共通語(鳴き方)があるという内容であった。ひょっとすると、「ホーホキョッキョ」とか「ホーホキョキョキョウ」は、近くに悪い奴がやってきたので気を付けるようにとの、仲間内の合図かもしれない。そして人も天敵も見当たらない平和な林の中では、「ホーホケキョ」と美しく鳴き、かわいらしいメスとつがいになって小さな卵を温めたりしているのかもしれないと思うようになった。生き物にはそれぞれの生活環境があり、そこに勝手に侵入しておきながら鳴き声が変などという傲慢さに気づいた次第だ。そういえば最近、他人のマスクのつけ方に自然と目が行き、気になると自分のマスクの密閉度を上げようとしている自分に嫌気がさしている。それぞれに呼吸が苦しい人もあろう、敏感肌の人もいよう。固定観念でとらえた情報に左右されるようでは、自分はまだまだ修行が足りないのかもしれない。切実な、命を脅かすコロナウイルスとの戦いの中でも、逆転の発想で逞しく生きぬいている人たちのニュースも入ってくる。自分自身のSustainable developmentにも努めていきたい。
まあとにかく、マスクや密にかかわる不信感を改善するには、予防ワクチンの接種率を高めるのが、現在のところ最も効果的だと考える。私も2回目の接種が終われば、次はワクチン投与者として貢献できるよう、心の準備だけは怠らないでいたい。
常に「住する所なきを まず花と知るべし(世阿弥:風姿花伝)」の心構えである。
令和 3年 6月 2日
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