日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 令和2年7・8月号

before, with, beyond, after, byコロナ時代の暮らし方
コロナウイルスは現状、特効薬や予防ワクチンのない、リスクが高い世界的規模の感染症です。したがって当面、私たちは自己防衛をしながら共存していくことを余儀なくされるように思います。いわゆるwithコロナです。世間にはコロナ時代の「新たな日常」「新しい生活様式」「ニューノーマル(新常態)」などのフレーズが踊り、私たちの生き方や暮らし方が否応なく変えられていくように感じてしまいます。今回はこのことについて、少しつぶやいてみます。
新型コロナの緊急事態宣言が全国で解除されて以降、東京にもまた人が戻ってきました。私は平均的に午前10時ごろの電車で都心の仕事場に出かけていきますが、この時間帯の乗客数は、いわゆるbeforeコロナよりも増えました。しかも大半を占めていたリュック姿の高齢者が減り、若年世代が増えたように感じます。withコロナの働き方として、フレックスタイム制や時差出勤制が導入されたためでしょうか。車内でのマスク着用は当たり前で、個性的なデザインのマスクもたくさんみられます。その独自性が効果的かどうか考えさせられるものにであうこともありますが。私は以前から、乗り物に乗るときにはマスクを着用していました。臨床現場にいるころからの長い付き合いで、マスクが煩わしいとは少しも思いませんし、いわゆる花粉症の時期には手放せないものでした。「風邪を予防して体調管理する」のも大事なことで、マスクのおかげで多くの分科会の理事懇談会や講演、そして懇親会に穴をあけずに済んできたと思っています。職業柄、洗顔・手洗い・うがい・口腔磨きはよくします。仕事から帰るとすぐに風呂場に直行です。これが風邪の予防に効果的だったかは定かではありませんが、今は新型コロナウイルスへの予防として推奨されていますので、きっと効果的だったのでしょう。
マスクを含めて、日本の生活習慣は感染症対策において有利だったという話が出ています。自分たちの文化をほめるのはよいですが押しつけはいけません。どの国や民族も生活習慣が異なってそれぞれの文化を形成しているのに、それを否定するようなことになりかねないからです。それでも、他の文化に敬意を表しつつ、良いものはどんどん紹介して推奨するような情報発信は、お互いに必要ですね。できれば根拠をつけた情報が望ましいところです。
さて、コロナウイルスとの共存、withコロナの暮らし方ですが、何もかも悲観的にとらえるのではなくコロナを超越した日常を獲得すること、すなわちbeyondコロナです。すでに社会では、新しい日常がさまざまな手段で示されています。自分に合ったものを選ぶのも良いでしょうし、自分で作り上げる新しい試みは楽しいではありませんか。ほんの一部だけ取り入れてもよいのです。afterコロナは、特効薬と予防ワクチンが自由に使える時でしょうか。感染症の完全な終焉は、これまでの人類の経験からも難しいでしょう。逃げるわけにはいきません。しかしこの短期間に、世界中で多額の資金と多くの人材がコロナ対策に投資され、有効なものになりつつあるところまでこぎつけてきました。これこそがコロナウイルスがもたらした人類の財産。力を合わせることでどのような困難でも乗り切ることができるという希望です。byコロナです。多様性だとか分断だとかで議論しあうことがもたらすものと比べると、ずっとうれしい感じがしませんか?
令和 2年 7月 7日
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