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日本歯科医学会について/ご挨拶

学会長ご挨拶 令和2年5・6月号

住友 雅人:写真画像

“コロナ時代の新たな日常を”1)


自宅における業務対応がひと月を超えた。学会長ご挨拶として役に立つメッセージは難しいが、ひとまず、いま現在の暮らしぶりを紹介したい。
 庭の一角で34年間使用していたアマチュア無線用の20m高の3角タワーは、このところの大型台風の被害情報から、今年の初めに撤去した。その跡にできた一坪ほどのスペースが、閉じこもり生活の息抜き場所になっている。雨でない限り、朝昼晩その様子を変える森や空を見上げ、気持ちの転換を図っている。一日24時間のうち、通勤に要していた往復3時間分の余裕ができたとはいえ、COVID-19に関わる緊急の対応要請もあり、なかなか生活のリズムを整えるのは難しい。その上に運動量が減った結果、奇妙なことに体重がみるみる下がっていった。3週が経過した頃からふたたび体重が増加してきたが、これは、筋肉量の低下ではなく、だんだん自宅業務のペースに慣れて、さらに気持ち的に吹っ切れたことが大きな理由のように思える。
 この一坪のスペースで物思いにふけるとき、この状況下で医療従事者である歯科医師および関係者が、感染症にあたっている多くの方々のお手伝いができないという忸怩たる気持ちが湧いてくる。歯科医師がPCR検査の検体採取者として支援できることにはなったとしてもである。こんな時期に不謹慎だと思われるかもしれないが、COVID-19への対応は歯科医療の現場をよく知る役員にお願いした。学会長としては現状の対応よりも、このCOVID-19が鎮静化したときの歯科界のあり方について、今までに経験したことのない出来事ゆえに、多くの逆転の発想をも取り込んでこの先の姿を考えることにした。まずは将来に望まれる姿を到達目標にして、バックキャステイング思考でそれぞれの時点の取り組みを進めていくというやり方である。後手後手に回らないで済む方法だと考えてのことだ。
 さて、現状を踏まえたうえで歯科にできることは何か? 東日本大震災後は災害時の歯科的対応が検討され、システムの構築が行われている。が、このような大規模な政令による指定伝染病に対するシステマチックな体制作りは残念ながら出来ているとはいいがたい。予想だにしていなかったということもひとつの理由である。しかもスタンダードプリコーションで対応というには相手の感染力が強すぎる、これまでの対応では危険性が高く今までの常識をはるかに超えているという見方は、今は戦いが激しすぎてまだ振り返る余力がもてない故ではないだろうか。過去にいくつもの乗り越えがたい課題があった人類は、それでも生き残って発展してきたのだから。何がよくて何がよくなかったのだろうか、時間や空間や生活レベルを統(す)べた振り返りと取り組みを進めたい。
 私は、現状での対応を続けると同時に、考えうるいかなる過酷な状況においても歯科医療を安全に提供できるシステムを構築していくことが重要であると考える。ハードとソフト面から歯科界挙げての取り組みが必要である。世界スタンダードとなるシステムづくりである。もう一つは歯科医療がこのような感染症への予防に貢献できるかという証明である。これまでの研究からもそのような「感じ」ではあるが「できる」という証明である。
 すでに、学会から「歯科イノベーションロードマップ」は発出された。このイノベーションにおいて「大規模発生型のウイルス感染対応」は大きなテーマとなる。歯科界からも治療薬と予防ワクチンの開発にかかわってその登場に貢献するという結論があるとはいえ、このイノベーション・テーマには、現在の歯科医学が持っているすべての物的人的財産をつぎ込んでいく必要がある2)
 なにはともあれ、私たち一人一人がまずは自分の命を守ることが人の命を守るということをしっかり認識し、それぞれの知恵を発揮し、時には集約することで、この危機を乗り切っていこう。いつもの暮らし方を保ちつつ、それができればいうことはない。
 

1) 安倍晋三首相の5月4日の記者会見から引用

2) PCR検査の検体として、唾液の方が鼻腔・咽頭拭い液よりも感度が高いという論文が発表された。

  ・MedRxiv(Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs)
 唾液による検査法が承認されれば、歯科医師法の範囲での検体採取が可能になる。


令和 2年 5月 5日



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