日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 令和2年4月号

新型コロナウイルス感染症の歯科的症状
新型コロナウイルス感染症の拡大で外出の自粛要請がなされた先週末、東京郊外にあるわが家の周辺の桜が満開になりました。何事もないように咲く植物のたくましさはうらやましい限りですが、人類も、今のこの危機をなんとしても乗り越えなければなりません。これまでも長い歴史の中でさまざまな感染症の試練を受けてきました。世界の人たちが行き来できるようになったことによる感染症の拡大は事実として、それだからこそなお、世界が英知を出し合ってこのウイルスと戦う必要があります。
先日、阪神タイガースの藤浪晋太郎選手らがワイン、コーヒーの香り(匂い)とみそ汁の味がしなくなったとして新型コロナウイルス感染症との関連からPCR検査を受け、結果、陽性と診断されたことが報道されました。このニュースを聞いてすぐに、かつて臨床現場で積極的に行っていた末梢性顔面神経麻痺の治療を思い起こしました。問題となる症状は片側の表情筋の麻痺でしたので、その改善にポイントをおいて治療効果を評価していましたが、症状把握と検査の段階で味覚低下(無味覚)もありました。ちなみに味の受容器の味蕾の神経支配は舌の前2/3は顔面神経(鼓索神経)、舌の後1/3は舌咽神経、軟口蓋は大錐体神経となっています。
これまで新型コロナウイルスの症状として、高熱と咳が続くといわれてきました。これらの症状が見られない陽性者の存在が感染拡大に関与しているともいわれます。陽性でも本人に自覚がない無症状の者は、PCR検査をすることもなく人々が集まるところに出向き、クラスターを起こす危険性があると報道され、各国、各都市のリーダーなどは、このような状況による感染拡大を防止するために外出禁止を強く訴えています。今回、この高熱、咳症状に加えて、藤浪選手たちが示してくれた「匂い」「味」の障害と新型コロナウイルスとの関連は、わが国において、症状がないからと出歩く者たちにも自覚を促す貴重な情報提供となりました。
この時期、歯科医院に電話予約が入れば、高熱、咳症状に加えて味覚についての情報も把握し、症状がみられた場合にはPCR検査を進めることも必要です。
とにかく状況が日々変わっていきますので、政府、厚労省、地方自治体から発せられる情報を常に把握しておきましょう。このウイルスとの闘いは素早い状況判断とさまざまな予測が求められます。組織、団体での固有の対応もあると思いますが、自分自身をどのようにして感染から守るかも必要な段階になっています。そして、個人の自覚から大勢の人々を守りましょう。
1.現在、学会では日本歯科医師会の新型コロナウイルス感染症対策本部のメンバーとして参画し、日歯HPにリンクする形で学会HPにおいて情報発信を行っています。
・日本歯科医学会HP・日本歯科医師会HP(新型コロナウイルス感染症について)
2.以下の情報はこの感染症の全体を知るうえで有効です。
・厚生労働省HP(新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)/令和2年3月24日時点版)3.現在、歯科医院での対応として安全性からみて推奨されるものです。
・新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて[厚生労働省医政局医事課 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課](令和2年2月28日付 事務連絡)・歯科診療における新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて[厚生労働省医政局医事課 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課](令和2年3月4日付 事務連絡)
令和 2年 3月 30日
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