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日本歯科医学会について/ご挨拶

学会長ご挨拶 令和2年2・3月号

住友 雅人:写真画像

ダブルプロフェッションはいかが


 新年を迎えると3月で退職しますという書状が届く。喪中はがきとは意味は違うものの、どちらも年ごとに多くなり、受け取る身は寂しい気持ちと加齢を感じるものである。春はさまざまな終わりが形を帯びて届いてくるのだ。
 私は前の職場を残りはわずかであったが早期退職をして、現在の仕事にかかわっている。退職に際して「最終講義」の時間を設けていただいた。この「最終講義」には学生はもちろんであるが、現役教職員、講座のOB、かかわりのあった他分野の方々などが出席してくださった。「最終講義」というのは、その先生の専門分野の業績が中心になり、タイトルにもそれぞれの想いが入っていて興味深い。私は「玄人はだしと素人ブーツ」というタイトルに想いをこめた。私の専門性と個人的方向性を知る方には理解できたようであるが、全体の反応はいまひとつ薄かったように記憶している。話は将来の夢からははじまった。小学生の時は発明家、中学生の時は喜劇役者、高校は夢なく「前かがみの青春」として世の中を斜に見て過ごした。大学は縁あって歯学部に進んだが、小さなころからのアマチュア無線に没頭する毎日であった。卒業時にはタイ国に2年ぐらい住んでみたいという想いを持っていたが、先輩の「若いころは研究に打ち込む人生を送るのがよい」という言葉につられて、急遽、歯科理工学専攻の大学院に進んだ。その後は口腔外科、歯科麻酔そして2001年からは臨床をやめて病院長、学部長に専念し、2013年から日本歯科医学会会長に専念することになった。そして落ち着く暇もなく、(一社)日本歯科医学会連合、加えて(一社)日本歯科専門医機構の理事長に就任した。
 さて「玄人はだし」とは素人の仕事ぶりを見てこれはかなわないと玄人がはだしで逃げ出すほどの素人の力量を言うらしい。「素人ブーツ」とは私の造語で、玄人のはずなのにその仕事ぶりは人目を引かず、素人にゆっくりとブーツのひもを締める余裕を与えるほどのお粗末な玄人という意味である。自分は何か一つの専門に打ち込んでいる、というところからほど遠い存在であるということを自虐的に表現したのである。
 さていよいよ本題であるが、先日、ある新年講演会で、人生はこうあるべきだという若い女性考古学者のお話を聞く機会があった。子どものころからの夢に向かって地球規模の研究を続け、世界に足跡を残す仕事に取り組んでいる姿は、後期高齢者の私にとってうらやましさを通り越してあこがれのスケールであった。でもご本人はいたって謙虚で、地べたに座り込んでメスで少しずつ化石の原型(スライドでは恐竜のうんこが示された)を掘り出す地味な仕事だとおっしゃった。一方で、歯科分野においても、国家資格を得た歯科医師は迷わずその道にまい進すればよい、と思うのだが、歯科界全体を見渡したときに、何か勢いが足りないような感じを受ける。私だけの感じではないらしく、特に現役の大学人から「最近の歯学生は勢いと面白さに欠ける」との声を聴く。歯科といってもさまざまな分野があるので選択肢がないわけではない。それでもこのような身内の評価である。
 歯科に関わる方とお付き合いをしていると、素晴らしいコレクターであったり、見事に楽器を奏でる方であったり、玄人はだしの方々に出会う。決してほかの分野の能力がないのではなくむしろ多才である。子どものころには、素晴らしい才能が評価され、スポーツの世界、芸術の世界など、将来はこんな道に進みたいと思っていた人たちも多いと聞く。歯学生の中には東京オリンピック、モントリオールオリンピックに日本代表として参加した猛者もいる。このような素晴らしい能力を歯科医学・医療の研鑽と並行して行い、どちらのフィールドにも勢いを与えるようなことはできないのだろうか?しかし個人の持つ能力にだけ頼るのでは限界もあろう。歯科医師でありながら○○のプロというダブルプロフェッションが育つような環境を整えていくことも、歯科界を活性化する一つの道だと、終わりと始まりの季節に感じさせられる。けれど終わりは次の始まりの準備であるとすれば、道は永続するだろう。
 子どものころから取り組んできたアマチュア無線はどうなったのかという声が聞こえてきそうだが、自分ではひとつのプロフェッションだと思っている。が、あくまでも「アマチュア」無線である。

 


令和 2年 2月 4日



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