日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 新年号

静かな初日の出
― お立ち台 ―
初日の出を拝みに行くつもりだったのか、目覚ましもかけないのに5時前に目覚めた。東京の多摩西部の日の出は6時50分ごろである。家を出るとさっそく、「初日の出マラソン」を走る先頭集団に出くわした。近くの浅川土手を出発点として、折り返し点である山頂の平山城址公園まで一気に駆け上る、毎年恒例の行事だ。笑顔で会話する余裕を見せながら走る高校生や中学生に交じって、小学生や後頭部が少し薄くなっている年代もえらい勢いで私を追い越していく。40年以上もこの地に住んでいるので、暗い山道には慣れていても、さすがに彼らを追いかける元気はない。逆に勢いのある若者にどんどん追い越されることに喜びさえ感じる。
頂上の小さな祠に寄り道をしてからいつもの尾根道を進む。近年の台風被害はこのあたりにも及び、あちらこちらで、垂れ下がる太い枝や根こそぎ倒れた大木が、散歩道をふさぐこともあった。都心の公園とは違い自然が残っているところだが、散歩人への被害を考慮してか昨年は多くの木が切り倒された。山道には大きな切り株があちらこちらに残り、その広い断面からはその木が育ってきた年月や環境を知ることができる。愛犬「ふー」が元気であった頃は、初日を拝む絶好ポイントに、かつての犬の散歩仲間がたくさん集まったのだが、今年はだれもいない。木の根が盛り上がってでこぼこになった細道沿いに並ぶ切り株を見ると、なくなった寂しさが倍増する。切り株に上がってみた。両手を上にして大きく深呼吸をする。新春の空気が胸を膨らます。雲の向こうにいるだろう日の出の太陽に向かって手を合わす。実に静かな元旦だ。ふと、切り株の上にいることに気づき、昭和40年代の自分の姿が浮かんできて、自然と体が動き出す。もうご存知の方も少なくなっているであろう、当時流行したゴーゴークラブのお立ち台を思い出す。このお立ち台は普段はお店のダンサーが躍っているのであるが、私はよくこの上で自己流のゴーゴーダンスを披露していた。徳島県出身の私の踊りはどうしても阿波踊り風になるのだが、大いに受けて、一段と興に乗っていた。
当時とは違い、人影のないのを確認し、見えない太陽に向かって踊りを披露する。明るくなった山道に、再び足を下し、今年の健康への祈りをつぶやきながら先に進んだ。実に静かな正月である。
令和 2年 1月 6日
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