日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 10・11月号

名月とは?
今年の仲秋の名月は10月4日となっていました。私の住む東京都日野市の今年の名月は「月も雲間のなきは嫌にて候(村田珠光)」の気分で味わうものでした。
いま、学術大会が全国各地で行われています。学会長はこの時期、多忙を極めます。分科会の学術大会に顔を出すのは学会長の仕事であり、学会の存在意義と所属意識を高めるためには大変貴重な機会です。秋の学術大会は9月半ばから12月中旬まで開催されます。初秋から初冬という心地よい時期に各地を回ることができるのはうれしいのですが、会場と駅や空港との行き来だけで、その地を楽しむということはほとんどできません。目に映る風景やさわやかな空気から少しでも、季節が動く気配を感じ取りたいと想う日々です。
雲間の月は不完全の美として大変に風情がありますが、この号はいつもと違って日本の最大の学術団体としてのあり方などについて、月をできるだけクリアに観測するような、かなり専門的な内輪話になる点をお許しいただきたい。
いま、各分科会を回ってのお話しは、歯科界をとりまく最新の情報はもちろんのことですが、横と縦との話についてです。縦横どちらを強調するかはそれぞれの分科会で違っています。
さて、横とはその分科会にいかに幅広い歯科の専門分野の会員が所属しているかということです。具体的な会員には、基礎から臨床そして医療管理や社会歯科の方々で、ここにはいわゆる多職種も含まれます。専門性が特化している分科会は、どうしても横は狭くなります。いま伝えていることは、歯科医療現場の中心を担う日本歯科医師会会員の分科会加入と、分科会会員の日本歯科医師会加入です。お互いに加入促進の方策を展開してはいますが、臨床現場のメンバーが加入することによって横はさらに広がる可能性が出ます。それは歯科界全体的に見ても望ましい話です。
縦とは、一つには学術団体として高いエビデンスレベルを推進することです。日本歯科医学会は、加入に際し、現状に合った基準を設けています。明記してはいませんが、求めているところは、加入を希望する学会はその専門性において、強いエビデンスの情報をいかに多く提供できるかにあります。学会はその情報をもとに歯科医療を通して社会に貢献していることから、より高いエビデンスレベルを得るためのより深い展開を望んでいるのです。
もう一つの縦としての学会の要望は、コンプライアンスの遵守です。会員一人一人がしっかりとしたコンプライアンスのもとに日々の専門的業務に関わっていくことを強く望んでいます。とりわけ、厚生労働省から医療広告ガイドラインおよび医療広告ガイドラインに関するQ&Aが提示されている医療広告についてですが、例えば車を運転するには、「道路における 危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」道路交通法があります。医療広告においては、厚生労働省が示す医療広告ガイドラインは、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告 適正化のための指導等に関する指針」という位置づけであり、道交法に比べれば指針ということからも緩やかな罰則※となっています。どちらも命にかかわる話ではありますが、医療の世界は、いわゆるプロフェッショナル・オートノミーがポイントになっています。あくまでも自己責任というか個人の問題ではありますが、一段と高みを目指すためには、学術団体に所属し、その一員として被されているコンプライアンス下に自分を置くことによって、一段と強固な遵守を身に付けることが期待できます。
研究分野においても平成29年4月14日に一段と高いコンプライアンスを課す臨床研究法が公布されました。これに関する講演会を日本歯科医学会は近日中に開催し各分科会に周知を図る予定です。
また平成29年6月30日には「特定商取引に関する法律の一部改正」が公布され、美容医療が特別商取引法の対象となり、歯科分野では「歯牙の漂白」が特定継続的役務として追加指定されました。
医師・歯科医師の裁量権による診療に使用される薬機法未承認の機器、材料についても遵守が求められています。
このように医療の世界で活躍する者にははっきりとした「雲間のなき名月」が求められているのです。
※ 罰則の適用について、以下のような制裁があります。
ア 行政指導
イ 報告命令又は立入検査
ウ 中止命令又は是正命令
エ 告発
オ 公表
2017年10月11日
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