日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 6・7月号

健康長寿、アマチュア無線ノスヽメ
関東地方は梅雨入りしました。雨が強く降るかと思えば、じりじりとした真夏のような太陽が照る日もあり、5月には北国で30度を超える日や雪の日もありました。人の営みが自然を変化させているということでしょうが、矛盾するようでも、その変化に人も対応していく知恵が必要です。
5月27日、広島におけるオバマ大統領のスピーチは、文章作成者とプレゼンターの能力の高さが示された見事なものでした。過去を消してしまうのでなく、それを深く認識したうえで未来に向かおうという姿勢こそがわれわれに課せられた使命なのだと、私も共感しました。課せられた使命とは大げさですが、実際には私たち一人ひとりの日々の行いということでしょうか。
歯科界にもこのところさまざまな出来事がありました。それぞれに人間の知恵を発揮し、粛々と進んでいます。われわれの学会も、法人格を有する日本歯科医学会連合がこの4月に設立し、「学会」で行うこと、行えることをより鮮明に認識できるようになってきました。歯科の大きな学術団体を2つ有することの意義をこれから積極的に示していくことになります。まず、「連合」が平成28年5月26日に日本医療安全調査機構の正会員として加入しました。「学会」はこのための理解を深め、医療の安全をより高めるために分科会の協力を得て日本歯科医師会と連携し、会員向けの研修会を開催していく予定です。
さて、独居、孤食の高齢者が問題になっている一方で、地域包括ケアシステムをはじめ高齢者対策が本格的に動いています。地域サロンのように、高齢者をコミュニケーションの場に誘う試みもさまざまに行われています。今回は、私がおすすめする趣味についてお話したいと思います。それは、かつて「King of Hobby」と称されていた、アマチュア無線(ハム)です。昭和40年代には大変なブームだったので、当時20代だった団塊の世代、すなわち現在の高齢者の多くがアマチュア無線のライセンスを取得しているのではないでしょうか?ラジオ少年でハムの免許を取得した方や自動車、ボート、ヨットの通信手段として免許を取られた方が数多くいらっしゃいました。アマチュア無線局の従事者免許は生涯有効です。局の免許の申請も簡単になっています。高性能の無線機器やアンテナも、簡単に入手できるようになりました。ネット時代に今さら無線通信でもないだろう、と思われた方も私の話に少し耳を貸してください。これがいろいろな点で健康寿命の延伸に効果がある、いや「健康長寿に有効」でありそうなのです。
年齢が高くなりますと朝早くに目が覚めるという方が多いですね。新聞を読み、TVを見て、ほとんど無言のまま食卓についたあげくに、食べ物、飲み物にむせる方がいます。ウンウンうなずける方、多いのではないでしょうか?私は「水泳やランニングにも準備運動が必要とされているでしょう。食事でも、咬む、飲み込むに必要な筋肉や関節などの準備運動が必要です。」と多くの場面で話しています。だからといって、早朝から電話をかけるのも迷惑なことですし、家族といえどもわざわざ起こして話しかけるのも喜ばれるものではないでしょうね。実際には、朝起きたときに新聞を大声で読むことが推奨されています。こんな時こそ、アマチュア無線です。世界中のハムが24時間、交信相手を探してバンドをさまよっています。ところが、さていざ話し相手を探そうと思っても、そこは一筋縄ではいかないのです。電離層伝搬による通信は、つながることが当たり前であるネットのような確実性はありません。その日のコンディションによって信号の強さが違ってきます。太陽のフレアやオーロラなどの宇宙空間の変化からコンディションを見極めるというような、大きなスケールで頭を使います。このようにして見つけた相手と交信すれば、頭も次第に冴え、口腔機能が活動し、食べる準備が整うというわけです。もう一つ、送信・受信の繰り返しは、脳細胞を活性化させます。受信時には、相手の話を聞き、内容を理解し、なんと返答するかを考えます。そして自分の送信の番になったら、言葉にして相手に伝えます。いわゆるLINEなどのSNSとおなじテンポです。この、少し時間がずれるコミュニケーションは、いや応なしに前頭前野の血流を増加することになるので、顔を突き合わせたそれよりもはるかに高次の脳細胞が働きます。このようなコミュニケーション・テンポを若い世代にだけ独占させる手はありません。そのうちにハム仲間で集まろうという話に展開し、年齢にかかわらない、また、言葉や文化の壁を超えた親しい輪が、どんどんと広がっていくということもあります。社会性の展開、世界規模の「地域サロン構築」という効果ですね。
もちろん、いつも一人のほうが落ち着くという方もあります。一方、何らかの形で「仲間」を得たいという方もおられます。一人きりで無線機器の前に座り、頭は広い宇宙空間をさまよいながら、心のコミュニケーションを楽しむアマチュア無線は、どちらも満足させることができる趣味なのです。みなさまも健康寿命延伸のための一法としていかがでしょうか?
2016年6月13日