日本歯科医学会について/ご挨拶
学会長ご挨拶 6・7月号

「流れに棹さす」
梅雨入りがまぢかです。六月は衣替えの季節ですが、近ごろはひと月も前にクールビズとなります。地球温暖化のゆえなのでしょう。衣替えは、衣服はもちろん、襖や敷物などを夏物に替えて住まい方を工夫することで暑さをしのいできた生活の知恵です。現在、職場や住まいを冷やすためにはエネルギーが必要ですが、その冷温を生み出すためにできた熱を処理するために外気温は上がりますね。ここで作られた熱エネルギーを再利用できれば、うまく行きそうですが…。いまは快適なビル街の外はヒートアイランドと化しています。
しかしもちろん、地球全体が同じ温度になってはいけませんね。北から南まではっきりとした四季とはいかなくても、とにかく季節の変化があるところに生命の活動があり喜びが生まれるように思えます。自然がになうこの変化を人間が代わって行うところに問題があるようですが、快適な生活というその恩恵も強く感じるところに自己矛盾が生じます。
さて私はこのところ、歯科領域を拓(ひろ)げようというテーマを掲げて、さまざまな場面で展開しています。実をいうと、「歯科界はもうだめだ」「歯科では食っていけない」など悲観的な声が内側から聞こえてきているのです。しかしながら、この言葉には、患者さんの気持ちが全く入っていません。社会が歯科医学・医療は必要ないと言っているならば仕方ないでしょうが、これは、需給問題をいいわけとしながら、歯科を必要とする人たちから逃げているように思えます。歯科医師が多すぎて、一人当たりの患者数が減少している上に、公的医療保険の診療報酬の評価が低すぎるということも多くの場面で聞きます。歯科界を取り巻くこれらの環境にあって、私も立場上、黙っているわけにはいきません。いま現在の解決策は、「活躍できる歯科の分野を拓く」ことと、「新規技術、新機能の機器・材料を公的医療保険の中に導入する」ことだと認識しています。私は歯科界の流れに棹さす、さまざまな取り組みをしていますが、すべてのものは互いに関連を持ち、動いていくので、そこによい循環を作って発展的に流していくことを目指しています。
歯科は医科に比べて選択肢の少ない分野で、これまでは外科的歯科領域を主として展開してきました。学生時代の基礎臨床実習や臨床実習においても、技術を中心とした診療体系を形作っていました。ところが少子超高齢社会を迎えて、社会が求める歯科医療の様相が大きく変わってきました。歯科的予防習慣や専門的口腔ケアという分野の要求が大きくなってきたのです。今までひしめき合っていた外科的歯科領域から、内科的歯科領域への拡大です。若年者や高齢者を対象とした歯科医療、子供や老人とのコミュニケーションが上手にとれる歯科医師の活動領域です。今、この分野の人材育成が強く求められています。
今般、在宅医療機器が政府の重点的医療機器5分野の一つに加えられました。臨産学そして経済産業省の支援で開発した在宅歯科診療用のポータブル歯科治療システムの海外展開が始まろうとしています。これを歯科診療所の足りないアジア地域に提供する試みがスタートします。そこで学会としては、教育機関と協力して、これらの器材を駆使した歯科医療が提供できる人材を養成し派遣する計画です。
このように多岐多様に活躍できる場の開拓は、若き歯学生の夢を大きく広げるものになるでしょう。患者さんも歯科医療従事者も「食べて生(い)ける道」を共有したいものです。
2015年06月08日